ファイルのバックアップを考える1【テープドライブ導入編】

■はじめに
■バックアップの意義を考える
 コンピュータの使用経験がある程度長い人であれば,1度や2度は ディスククラッシュに よるファイルの喪失という悪夢を見たことがあると思います.また, ディスクがハード的に故障した 場合以外でも,ヒューマンエラー, いわゆるミスオペレーションのために重要な ファイルを消してしまったという経験があるのではないかと思います. 『転ばぬ先の バックアップ』とはよく言われますが,何か事故が起きた直後はモチベーション が上がり, 何らかの対策を取る場合が多いけれど,継続的に履行している人は少ないのではないかなと 思います.そして忘れた頃に再び悪夢が…

 それでは,何故バックアップを行うのか,バックアップ方法の必要条件として どのようなものがあるのかに関して,改めて考えてみましょう.

■何故バックアップを行うのか?
 おそらく下記の3点が,バックアップを行わなければならない理由でしょう.

  • ディスククラッシュをはじめとするハード的な故障によるデータ喪失への備え
  • OSやソフトの意図せぬ動作や誤動作によるデータ喪失への備え
  • 人間が誤った操作を行うことによるデータ喪失への備え

 最近は,複数ディスク を利用したミラーリングをはじめとするRAIDアレイを構築することにより, 耐障害性の高いシステムを構築することが,安価かつ容易にできるように なりました.そのため,従来データ喪失の原因として最も恐れられており,発生頻度も 高かったディスクの故障への対策はこれで完璧…とばかりに導入されている方はかなり多い のではないかと思います.しかし,これはあくまでもハード的なクラッシュの一要因に対して の対策であり,例えばRAIDコントローラが故障してしまったりした場合は為す術もありません. 業務用のRAIDアレイの場合は,電源やファン,コントローラも含めて全て2重化されている ものが殆どです.しかし,障害の発生率を下げることは可能であっても,全ての危険要因を 完全に排除することは難しいでしょう

 また,Windowsを利用している人であれば,OSインストール当初は安定していたにも関わらず, 長期間使い続けていると, 次第に動作が不安定になって来るという症状を体験したことがあ ると思います.これは OS の構造そのものに問題がある(と,私は思っています)ためです. 例えば,重要な情報を納めたファイルであるレジストリは,適時書き換えられますし,また, ソフトのインストールや削除などを繰り返すと,使用していないファイルや設定の残骸が残されて しまったりします.そのため,安定した状況を長期間維持するのは困難だと思われます.では, UNIX 系の管理しやすいOSでは無縁かというと,必ずしもそうではありません.不適切な 設定 でインストールしたソフトは重大な危険を及ぼす可能性がありますし,あれこれ試行錯誤しな がらインストールしたライブラリ等は,設定のコンフリクト等の様々な症状を引き起こすこと でしょう.

 3番目は最も日常的に起こりえる事柄ですが,誤ってファイルを削除してしまったり, 間違って保存用のマスター/オリジナルファイルに修正を加えてしまった…と,いった類の 事故です.こればかりはミスオペレーションをしてしまった自分が悪いわけですが,泣くに 泣けない悲しい事態になることが多いでしょう.

■バックアップ方法の必要条件
 システム寄りの話ではなく,より高いレイヤーで考えてみますと, バックアップ方法の最低限必要な条件として,以下の5つの条件が 挙げられるでしょう.

  • 必要な領域を安全な場所/メディアに退避できること
  • あまり労力をかけずにバックアップができること
  • 確実かつ容易にリストアができること
  • 可能であれば,過去に遡って任意の時間の状態に復元できること
  • 短時間でバックアップが行えること

 これらの条件を満たしていないバックアップ方法は,その履行が行われなくなる傾向に ありますし,また,バックアップそのものの必要性に疑問が持たれてしまうことでしょう.

■バックアップに関する予備知識
■一般的なバックアップの行い方
 私の場合は,これまでは次のようにバックアップを行ってきました.

  • 重要なファイルは複数のマシンで重複して持つ
  • 出来るだけ大容量のメディア交換可能なドライブを用意し,重要なファイルは適時外部メディアに書き出す

 前者は『同時に複数マシン/ディスクがクラッシュすることは無いだろう』という前提で 行っている方法です.その方法の一部は こちらのページで触れました.ただしこの方法 は,ファイルの同期をきちんと行うことは難しいという難点があります.更新は 常に一方通行という場合は良いのですが,複数のクライアントマシンが重複してデータを 持っており,かつ,どのファイルをどのマシンが更新するか分からないという状況の場合は, 運用が非常に困難になります.また,電源の入っていない/ファイル共有が一時的に出来ない マシンが存在し, 更新漏れが発生する可能性がある場合には,さらにこの問題は深刻になります.

 利用している OS が Windows の場合は,例えば realsync のような,自動更新ソフト(ネットワークドライブ対応可)を使用すると, 便利かつ簡単にフォルダ間の同期が取れます.しかし,前述したように, あくまで限定的な,例えば更新は一方通行であるようなときにのみ使用可能な方法だと思 います.もちろん,労力さえかければ如何様にも出来ないことは無いのですが,あまりに 煩雑ですと,面倒になってやらなくなる可能性が大きいでしょう.

 後者に関して説明しますと,私はディスク容量が数M〜数十MB の頃は,フロッピーディスクに フルバックアップしていました.しかし,その後のディスク容量の急激な増加に伴い,ディスクの 内容全てをバックアップすることをあきらめ,必要なファイルのみをバックアップする ように方針を改めましました.使用するメディアとしては, 100MB ZIP,PD, DVD-RAM(片面 2.6GB) を経て,現在は CD-R や DVD-R, 片面 4.7GB の DVD-RAMに取るようにしています.なお,CD-R や DVD-R メディアの長期間に渡るデータ保存性は未知数な部分がが多いため,データの重要度に応じて 数組バックアップを作成し,別々の場所に保管するようにしています.

 最近は CD-R ドライブの普及やメディア単価の急速な下落により,『本当に残して おきたい』と思えるデータに関しては,CD-R を使ってバックアップを行っている人が 多いのではないかと思います.しかし,650MB〜700MB という容量は,かなり微妙な容量 です.最近のディスクの容量と比較すると明らかに低容量ですが,一般的なデータ,例えば動画 や高解像度の画像ファイル以外のデータを保存する用途には,かなり使えるメディアだと思います. しかし,データをこの容量に収め易いように区画整理/フォルダ分けしておらず,また,ディスク上 でのファイル構造を,労力少なくそのまま保存したいと考え始めると,この方法は途端に破綻を 来します.

■個人でも射程距離に入り始めた企業向け製品
 それでは若干脇道に逸れますが,個人ベースで100GB単位のディスクが容易に入手可能に なる以前から大容量ディスクを扱っていた,企業向でのディスク/ディスクアレイのバックアップ 方法について簡単に解説することにします.

 業務に使用しているディスクの場合,記録されているデータの消失が即,金銭的な 損失に結びつくため,非常に堅牢なバックアップシステムが必要になります.また, 一般にバックアップする必要のある容量が 大きい場合が多いほか,バックアップにかけることが出来る時間に限りがあるため, 大容量かつ高速なバックアップ方式が求められます.特に24時間稼働のシステムの場合, 自動的かつ定期的にバックアップがなされるような仕組みが必要であり,例えば 日曜の早朝に フルバックアップ,毎日早朝に差分バックアップ(前のバックアップ後に変更のあった もののみバックアップする)というようなスケジュールを組み,自動的に動かしている ことが多いでしょう.

 このような用途に使用できるデバイスはかなり限られており,テープメディアが古くか ら利用されて来ましたし,現在も主流です.しかし,テープメディアの大容量化が現在も 進行中とは言え,そのペースは近年のディスクの大容量化に追いついていません.そこで 現在のソリューションとしては,テープマガジンに数本〜数十本のテープを格納しておき, 所謂『オートローダー』で自動的にテープを交換する装置を使用する方式が一般的です.

 小規模システム向けの商品としてはメディアが3〜6本程度入るテープマガジンを使用する ものがあるほか,大規模な物ですと,一部屋占有するほどのサイズ で PB オーダー(PB: Peta Byte. 1PB は 1,000TB)の容量を持つ物もあり,ディスク容量に 合わせたスケーラビリティが確保されています.

 なおこの手の装置は,一般的なバックアップ用ソフトでは利用できず,複数ドライブ (平行してテープに記録することによりバックアップ速度を高めるため,複数のテープ ドライブを搭載するのが一般的), メディアの交換を機械的に行うオートローダー,複数メディアを管理するためのソフトが 別途必要になります.以前はこのソフトも目が飛び出るほど高価でしたが,最近は SOHO (Small Office Home Office) でも導入可能な廉価なソフトも売られています.また, Linux をはじめとする,小規模なシステムに採用される OS でも動作し,その使い勝手も かなり改善されてきています.機能的にも,前述したスケジューリング・バックアップが 可能なものが殆どです.


 ちなみに『小規模システム向け』と書いたのには理由があります.企業向けローエンド 向けの製品は,個人向けミドル〜ハイエンド向けの商品と価格帯がほぼ同じくらいになります. 実際,このゾーンの向けのテープドライブはかなり値段がこなれて来ており,個人でも 購入できなくもない金額になってきました.

 ちなみに,以前は『個人向け』ということで,非常に低価格かつ低容量のテープドライブが 販売されていました.しかし,容量の点で非常に使い勝手の悪い物であり,すっかり市場から 姿を消してしまいました.その一方,今も充分実用的に利用できる容量を持った企業向け ローエンド向け商品は,1世代〜数世代前のドライブを使用したものであれば,新品で10万円弱. 新古品や質の良い中古品であれば,1万円台から売られています.オートローダーでも, オークションを見ますと, DDS3 6本のタイプで 3万円前後で落札されていたりします. なお前述した通り,オートローダを使用するためには,それ用のソフトが必要な場合があります (使用 OS がWindowsであれば,ドライブによってはOS搭載のソフトが対応している場合もある).

 元々が企業向けということもあり,これら製品の安全性はかなり高く,また,ヘビーユース ユーザー達の現場で,長期間利用されて来たという実績もあります.個人ユースレベルで バックアップを考える場合でも,その金額さえ納得できるものがあれば,これを利用しない 手はありません

■テープドライブの規格
 テープドライブを購入する上で,まず検討しなければならないのは,どの規格のドライブ を購入するかです.ドライブ単体の仕様で見た場合,容量の大きな物ほど使いやすいのは想像に 難くないでしょう.しかしその一方,マイナーな規格の物ですと,メディアの入手が困難です. また,小規模システム向け以外の製品/規格の場合,メディア単価はかなりのモノになります. ドライブが仮に安く入手できたとしても,個人で運用するのはかなり厳しいと思います.

 現在一般的なテープドライブの規格としては,Travan,DDS,AIT,DLT,LTO等が あります.この他にも多くの規格がありますが,マイナーなもの(EXABYTE は最近すっかり 見かけなくなったので載せてません)を除き,代表的なものを以下に簡単にまとめてみました.

規格 非圧縮時容量/
圧縮時[GB]
最大転送速度/
圧縮時[MB/sec]
方式
TRAVAN-10.4/0.80.125リニア
TRAVAN-20.8/1.60.125リニア
TRAVAN-31.6/3.20.250リニア
TRAVAN-44/81リニア
TRAVAN-5/
TRAVAN 20
10/202リニア
TRAVAN-6/
TRAVAN 40
20/404リニア
DDS12/41.1ヘリカルスキャン
DDS24/81.1ヘリカルスキャン
DDS312/242.2ヘリカルスキャン
DDS420/404.8ヘリカルスキャン
AIT-135/706ヘリカルスキャン
AIT-250/10012ヘリカルスキャン
AIT-3100/26031.2ヘリカルスキャン
DLT-200015/302.5リニア
DLT-400020/402.5リニア
DLT-700035/7010リニア
DLT-800040/8012リニア
Super DLT-220110/22022リニア
Super DLT-320160/32032リニア
LTO Ultium1100/20030リニア

    ※最大転送レートは資料により値が異なる.ドライブによる差もある他, 実際に使用する環境によって実効レートはかなり変動する.あくまでも 参考程度に見て欲しい.

    ※TRAVANシリーズは,"TR-1"のような表記が正式.

    ※方式について:
     ヘリカルスキャン方式:テープの走行方向に対してヘッドを傾けて配置し, 常時回転させながら斜めに記録する方式.記録密度が高いという特徴がある一方, 後述するリニア方式と比較して,テープに対するストレスが高い(結果,摩耗 によってメディア寿命が短くなりがち)と言われている.また,カートリッジは 一般にカセットテープのような2つのリール(テープを巻き取る部分)を内蔵した 構造のものを使用し,テープをドライブ内に引き出して記録/再生をする. テープパス(通り道)が長く,接触面が多いという難点がある.なお,AIT は ヘッドおよびメディアの信頼性を高めるため,テープの汚れ除去の機構などを 備えている.

     リニア方式:テープの走行方向に対して直線的に記録を行う方式.ちょうど カセットテープのような感じ.カートリッジの構造としては,テープを巻いた リールが1つ内蔵されており,一旦ドライブ側リールにテープ巻き取り後, 記録/再生が行われるのが一般的(TRAVANは少し異なる.詳しくは後述).テープ パスが短く,接触面が少ないほか,構造上単純である.
     TRAVANはカートリッジ内の構造が DLT とは異なる.リールは2個格納されて おり,また,テープ面はカートリッジ外に露出しないようになっている.

 大雑把に書きますと,それぞれの規格のグレードは,TRAVAN << DDS < (AIT ≒ DLT ≒ LTO)のようなに分けることが出来ると思います(普及度, 周りの評判などを参考に評価.あくまで私の個人的所感).AIT, DLT,LTO は個人で利用するにはランニングコストが嵩み過ぎますので,現状あまり お勧めできません.個人で利用するという意味でターゲットになるのは,TRAVAN か DDS でしょう

 なお,『非圧縮/圧縮』となっているのは,ドライブ側でハード的に行うデータ 圧縮を利用しない場合/利用した場合のデータです.また,最大転送速度は,データ 圧縮時です.非圧縮時にはこのレートは約半分になります.

 大抵の規格で圧縮時にデータ容量は2倍になると書かれていますが,これは あくまでも理想的な状態の場合です.業務上,DDS,AIT,DLT等いくつかのドライブを 利用してきましたが,雑多なバイナリファイルをバックアップする場合,大まかに 言って1割〜2割程度圧縮が効くかな…といった感じです.バックアップ方針を考える 場合,非圧縮時の容量をベースに考えた方が良いでしょう.

■メディアの価格
 交換可能なメディアに対してバックアップを取る場合は,当然メディアのランニング コストに関しても検討しなければいけません.バックアップの取り方にもよりますが, あまりテープは使い回しをせず,消耗品と割り切って使用した方が良いでしょう. メディアによっては,『テープパス・カウント』(何回テープをロードし,走行 したか)を自動でメディア側に記録し,一定のリミットを超え,信頼性が維持出来なく なった場合に警告を出す機構を備えているものもあります.ただし,例えば DDS テープの場合は 2,000回のテープパスが可能とメーカーは言っていますが,これは あくまでも理想的な環境の場合です.個人的には,カタログスペックはあくまでも参考 程度に考えるに止め,例えばオーバーライトを一定のサイクルで行う場合,DDS のテープであれば 20〜30回,最悪50回くらいを目処に廃棄した方が良いのでは ないかなと思います(あくまでも私個人の感覚的な回数です).

 運用を開始した際に,何本くらいのメディアが必要になるかに関しては, バックアップの取り方や,そのスケジュールの立て方に依ります.当然のことでは ありますが,必要量ギリギリの容量で計算せず,ある程度余裕を持たせて計算 した方が良いでしょう.

 ちなみに,私がよく利用している(わりと安めの)オンライン通販での1本辺りの メディア価格は,以下次のような感じです(2002年10月現在).なお,10本パックで 購入した方が割安な場合は,そちらの金額で計算しています.CD-R,DVD-R, DVD-RAM に関しては,平均的な価格を参考値として載せました.なお,当選のこと ではありますが,メディアは消耗品です.中古品や,保存状態が不明(例えば高温 多湿環境は最悪です)な新古品は避けた方が良いでしょう.

規格 容量[GB]
(非圧縮/圧縮時)
1本辺りの価格 1GB単価(非圧縮時)[円] メーカー
TRAVAN-2 0.4/0.8 3,540 8,850 イメーション
TRAVAN-2 0.8/1.6 3,600 4,500 イメーション
TRAVAN-3 1.6/3.2 3,680 2,300 イメーション
TRAVAN-4 4/8 3,540 885 イメーション
TRAVAN-20 10/20 5,680 568 IBM
TRAVAN-40 20/40 7500 375 Seagate
DDS1 2/4 540 270 イメーション
DDS24/8766192 イメーション
DDS312/241,280107 イメーション.最近値上がりしたかも?
DDS420/403,070154 イメーション
AIT-135/7012,600360 東芝
AIT-250/10014,000280 Compaq
AIT-3100/26019,000190 東芝
CD-R0.75071 太陽誘電
DVD-R4.7520109 Maxell
DVD-RAM(両面 Type4 カートリッジ付き) 9.41,400149 Maxell

 DLT,LTO に関しては省略します.これらは1本辺り,AIT と同程度〜2万円台で 売られています.金額的に個人で維持するのは困難だと思います.

 前述したとおり,個人で使用する場合,ドライブの価格的に TRAVAN か DDS が ターゲットになると思います.特に TRAVAN は個人〜小規模システム向けということ でドライブの価格が安いこともあり,日本でもかなりの人気を博していました.例えば 現在のドライブの価格を見ますと,TRAVAN-20 が 3万円台,TRAVAN-40 でも7万円台で 新品が購入可能なようです.また,接続用インターフェイスも USB2.0 や ATAPI,SCSI 等 多様なものが揃っていますし,ドライブ製造メーカーは個人向けに注力している印象が あります.

 しかし,転送スピードが遅いほか,メディアの単価が高く入手性がかなり悪化 していることもあり,(日本国内では)最近はあまりお勧め出来る状態にはあり ません.海外では人気があるようですが,ランニングコストを考えると,DDS, 長期的に使うのであれば AIT 等を使った方が安上がりになるのではないかと 思います.

 そういえば ZIP 100 が発売された当初,海外では大人気を博しました. ランニングコストまでを考えると割高になります(例えば当時の MO と比較)が, どうもあちらではメディアではなく,ドライブの価格が重要視されるような 感じですね.『彼らはイニシャルコストしか見えてないんだよ…』と,問題 発言している人もいました….確かに MO と比較して ZIP の方が書き込み スピードが高速で,いくつかのメリットを見い出せるのですが,トータルで 考えた場合は確かに疑問に思える部分も…閑話休題.

 以上のようなことを総合的に考えますと,DDS3 の利用がコスト的にはお勧めです. DDSドライブは下位互換性が確保されていますので,DDS4 ドライブで DDS3 のメディア を利用するというのもランニングコストを抑える手として有効でしょう.ただし, バックアップを取らねばならないディスクボリュームがあまりに大きな場合,『非圧縮 12GB記録可能』という容量はあまりに非力です.自動的に複数のテープを利用して大きな ファイルをバックアップしたい場合は,オートローダーの購入を検討した方が良いでしょう.

 その他,少し付け加えておきたい事柄としては,高価なドライブ,高いメディア にはそれなりの理由があります.金銭的に若干余裕があるのであれば,変な所で ケチらない方が良いでしょう.

■DDS3ドライブを使ったバックアップ
■DDSドライブの入手
 前振りが長くなってしまいましたが,上記のことを考慮し,DDS規格のテープドライブを 購入することにしました.グレードとしては,DDS3 または DDS4.メディアは とりあえず DDS4 ドライブを購入した場合でも, DDS3 規格のメディアをメインで使用することを 考えました.また,オートローダーは何かと設定が面倒ですので,今回は選択候補には 入れていません.なお,ドライブが廉価に入手できた場合など,オートローダーを Linuxで使う 場合には,パッケージソフトの NetVault,またはフリーソフトの Amanda を使うとよいでしょう.

 さて,ドライブの価格ですが,SCSI接続で内蔵用および外付け用が複数メーカーから ラインナップされています.今回は Terminator に内蔵するのは電源への負担やベイ数の関係 から避けることにし,外付け用をセレクトすることにします. DDSドライブで最もメジャーな HP(Hewlett-Packard)製ラインナップ で見ますと, DATのページ にあるように,DDS3 であれば hp surestore dat24e, DDS4 であれば,hp surestore dat40e という製品になります.ちなみにオンライン購入可能なダイレクト販売での価格は,それぞれ 190,000円,260,000円と,かなり高額になります.また,パーツショップをはじめとする 販社オンライン通販の価格でも,劇的に安いわけではありません.どこでも 大抵 10〜20万円くらいです.購入層が限られているせいもあってか,最近の各種 PC 用 ドライブの価格と比較すると,高値安定の感があります.この額では, Terminator を何台も購入できてしまいます…

 と,まぁ正規の購入ルートで新品を購入するのはコスト的にあまりメリットを 感じられないため,新古品ないしは中古品を探してみることにしました.とは言え, 私が週末などに気軽に足を運べる近畿圏には,中古品を販売している店はそれほど 存在せず,また,タマ数も少ないため,適当な品を見つけることは出来ませんでした. 秋葉原では サーバの新古品から抜いたDDS4ドライブが1万円以下で売られていた…なんて誠に 羨ましい話も聞くのですが,日本橋で見つけられたのはリース落ちのマシンから取り 外されたであろう中古内蔵ドライブのみ.それもかなり酷使されていたような色合い になっていました.

 余談になりますが,中古,それもジャンク扱いのテープドライブを購入する場合には, できれば実際に手に取り,その状態を確認した方が良いでしょう.メディアに直接 触れることになるヘッドには寿命がありますので,企業で定期バックアップに使われ, かなり酷使されたであろうものは,避けた方が賢明です.

 最後にチェックしたのは,オークションです.こちらは常に良品が潤沢に出品され ているとは限りませんが,定期的にウォッチしていると,極上品が出品されているこ ともあります.例えば Yahoo オークション であれば,『コンピュータ->周辺機器->記憶装置->テープ装置』と,辿っていくと テープドライブ関係の出品物に辿り着けます.大まかな相場ですが,DDS3 の内蔵ドライブ で1万円弱から.DDS4 の内蔵ドライブで 3万円台くらいでしょうか.ただし, 外付けドライブはオートローダー以外のものはたまにしか出品されていませんので, 内蔵ドライブを安く 競り落とし,別途 SCSI 外付け用ケースを購入して外付けドライブ化というのも良いか もしれません.一点注意しなければならないことは,オークションは基本的に個人売買 と同じということです.そのため,入札者側がきちんと出品物を見定めなければならない ということでしょうか.

 ちなみに私の場合は,たまたま極上品の hp surestore dat24e が出品されていた ため,25,000円程で競り落としました.相場と比べると割高な感じがしますが(同時 期に DDS3 の6連装オートローダーが3万円弱で競り落とされていました),同様のニーズ を持った方が他にも数名おられたようで,競り合っているうちに,この金額になりま した.

 私はこのときに初めてオークションを利用したわけですが,トラブルもなく, 想像以上に状態の良い品が届いたので,大満足でありました.

付属品一式揃っていました.ユーザ登録はがきまで!
ドライブと電源コード.美品.大満足.
ちなみに前面投影面積があるため,奥行きがかなりあるように見えるが,大体 Terminator と同じくらい
ドライブ正面
ドライブ背面.電源スイッチ,SCSI ID設定用スイッチ,冷却用ファンがあります.
なお,SCSI コネクタは50ピンのアンフェノールタイプ.SCSIターミネータも付属

 ドライブ本体以外に必要なものとしては,Terminator には SCSI インターフェイスが無いため, SCSIカード.そして SCSI ケーブルの2点です.

■SCSI カードの取り付けと設置
 Terminator には SCSI インターフェイスが搭載されていないため,SCSI 機器を接続するためには, SCSI カードを PCI スロットに取り付けなければなりません.では,SCSI カードとして何を (どのグレードを)選択するかですが,闇雲に最高スペックの物を選択するということはせず, 接続する機器を考慮して判断すると良いでしょう.SCSI 機器として,比較的低速なスキャナ や MO 等のドライブ,今回のテープドライブのようなものを接続する場合は,FastSCSI や UltraSCSI 対応のカードで充分でしょう.逆に高速なディスクも接続したい場合には, Ultra320 SCSI クラスのカードを選択した方が良いかもしれません.

 SCSI にはどのようなグレードがあるかについては, こちらのページを参照して ください.

 一点注意した方良いこととしては,カード側の接続コネクタの形状が挙げられます. 現在様々な形状のコネクタが存在しており,変換接続ケーブルも多くのものが売られて います.外付けの SCSI 周辺機器を接続する場合には,『50ピン櫛形』『ピンハーフ ピッチ50ピン』といわれる形状のものを選択しておくと何かと便利でしょう.

 また,今回の テープドライブに接続する場合には,このコネクタからアンフェノール50ピンに変換する ケーブルを使用して接続することになります.『具体的にどのケーブルを買えばよいか わからない』という場合には,メーカーのページを参照してください.例えば エレコムのページには 図入りで解説されています.特に間違えやすいのは,このページで言うところの『ピン ハーフピッチ50ピン』と,NEC PC-9801シリーズでよく使用されていた 『ハーフピッチ50ピン』です.店頭でケーブルを購入する場合にはパッケージをきちんと 読み,間違えないように気を付けましょう.また,長過ぎるケーブルや品質の悪いケーブル を使用すると,エラーが発生しやすくなります.この点に関しても注意してください.

 その他,SCSIカードを購入する際に戸惑いやすいのは,『SCSI BIOS』の表記です. カードによっては,『SCSI機器からの起動不可』と書かれているかもしれません.

 SCSI 機器(例:SCSI ディスク)からブートする際には, SCSI BIOS をカード側に持って いなければなりません(M/B の BIOS に搭載されている場合もあります).しかし,今回の ようにブートは IDE ディスクから行い,SCSI は周辺機器を 接続するだけの場合は不要です.そのため,SCSI BIOS 非搭載の安いカードでも十分 です.

 私の場合,手持ちで Tekram の DC-390U が1枚余っていたので,これを使用すること にしました.この製品は生産中止品ですが,スペックを簡単に書きますと,SCSI BIOS を搭載 した UltraSCSI カードであり,カードブラケット,カード上にそれぞれ1ポートづつ SCSI コネクタが付いています.Tekram の現行商品で言うと, DC-395U のラインに当たります.このカードから SCSI BIOS を除いた廉価版が DC-315U ですが, 前述した通り,周辺機器を接続するような用途であれば,こちらでも問題はありません.

 その他,SCSI カードを購入する際には,メーカーを選んだ方が良いでしょう. Adaptec か Tekramのカードにしておけば,大きな間違いは無いと思います(本当は使用チップも確認 しておいた方が良い.Linux で利用する場合にはそのサポート状況も).なお,Adaptec を選択した場合,AHA-2940U の廉価版である AHA-2940AU というカードがありますが,これ は何かと問題が多いため,避けた方が良いと思います.

DC-390U 後期の品.箱が大きい.前期の版は,箱が小型でした
付属品一式.マニュアル,ドライバ FD,カード,内蔵装置接続用 50pin ケーブル
購入時期が古いため,付属ドライバは太古のバージョン.Web から最新版を落とした方が良い
カードのアップ
カードブラケットには1ポートの50ピン櫛形コネクタ
Terminator に取り付けるとこのような感じ.カードが小型なのでケーブルの 取り回しの邪魔になりにくい.
なお,下のカードは TV キャプチャカード
Terminator の上に設置するとこんな感じになります
ケーブルは手持ちの50cmの ものを使用しました.

ファイルのバックアップを考える2【テープドライブ運用編】に続きます.


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