Turion64 MT-32 の使用

['05/07/10] 初稿&取り急ぎアップ

■TerminatorII AE1の静音化
■パフォーマンスと消費電力のトレードオフ
 今回,Socket754 で利用可能な最高クロックの Athlon64 ということで,まずは T2-AE1 に Athlon64 3400+ を搭載することにしました.結果は K7DDR+ AthlonXP-M 2600+ と比較して大幅なパフォーマンス アップが体感でき,これまで『何とかならないかなぁ』と考えていた MPEG2 動画のビットレート変換 が良好なスピードで行えるようになりました.しかしその反面, 130nm プレスルールを使用した Athlon64 3400+ は TDP が 89[W] もあり,高負荷が続くと CPU が高発熱し, Q-Fan が効いて CPU ファンの回転数増加→騒音の増大と相成りました.

 このような状態は予想できた事態ではありますが,実際にその轟音を耳にしますと,何とかならないか なぁと考え始めるのも当然の成り行き.方向性としては,高い冷却能力を持ったヒートシンクと静音 ファンを搭載した高性能 CPU クーラーへの換装が考えられます.私も一時はこれを考え,T2-AE1で 問題なく利用できる高さの CPU クーラーを物色していました.

 しかしその一方で,重いジョブを流すときは夜間も動かしっぱなしで数日間動かすこともある ため,多少パフォーマンスが低下しても良いので,低発熱の CPU への換装という方向性も検討しました. まず候補として挙げられるのは,やや 低発熱の Sempron.130nm プロセスルールで製造されていますが,L2 キャッシュが 256KB,64bit 機能を OFF にしている (注:その後,64bit機能が追加 になったようです)等,性能は低下しますが,TDP は 62[W] に押さえられます.しかし性能が落ちる 割に大きな TDP の低下が望めませんので,この選択はあまり魅力的ではありません.

 そして次にモバイル向けの CPU が候補に挙がります.このページを読まれる方 は他の CPU に対する関心があまり高くないと思いますので,解説を端折って,本打ちとも言うべき Turion64 を中心に解説することにします.

 Turion64 はモバイル向け CPU として登場し, 2005/3 月から出荷開始になっています.この CPU の大きな利点は, Socket 形状が一般的な Socket754 であることです.CPU の中身はと言うと, Socket939 向けの 90nm プロセスルールで製造された Rev E,Lancaster コアがベースになっています.そして機能的には, EVP (Enhanced Virus Protection) や SSE3 に対応する 64bit CPU となっており,省電力機能として, Cool'n'Quiet に代わり,モバイル向けということで PowerNow! が実装されています.そしてこの CPU が何よりも素晴らしい点は,TDP が 25[W],35[W]という低消費電力であることです.

 一部デスクトップ用 M/B でも動作報告がされ始めており,『使用中の M/B が対応していれば』 という条件が付くものの,死角が無いように思われる CPU ですが, 残念ながらまだ出始めたばかりの CPU ということもあり,Turion64 はかなり割高な上,入手性は あまり良くありません.また,高クロック版の発表が今後予定されてはいますが,現在入手可能な Turion64 はデスクトップ向け CPU よりも2ランクほど下の物になってしまいます.

 しかし,『静かでハイパフォーマンス』という Terminator シリーズの神髄を実現する上では 正に打って付けの CPU であることも事実.そこで多少パフォーマンスが低下することには目を瞑り, 今回 TerminatorII AE1 で Turion64 が動作するか,そしてそのパフォーマンスはどの程度のもの であるのかを検証することにしました.

■Turion64 のラインナップとロードマップ
 Turion64 は『3400+』のようなモデルナンバー(*)ではなく,『MT-30』のような,一見して スペックの分からないモデルナンバーになっています.まぁ数字が大きい方が高性能なのだろう という見当は付くのですが,TDP や L2 キャッシュサイズの違いがある上,まだ AMD のサイトで データシートが公開されていないため,購入時に混乱するかもしれません.

(*)AthlonXP や Athlon64 は Thunderbird コア Athlon 換算のクロックレートであり, Sempron は Celeron 換算のレートである点に注意

 そこで,現在までに分かっている Turion64 のスペックに関し,以下に簡単にまとめてみました.

表 Turion64 のラインナップ
TDP [W] CPU 名 実クロック[GHz] L2 サイズ[KB] Socket 備考
25 MT-28 1.6 512 Socket 754
MT-30 1.6 1024 Socket 754
MT-32 1.8 512 Socket 754
MT-34 1.8 1024 Socket 754
MT-37 2.0 1024 Socket 754 2005年Q3 予定
MT-40 2.2 1024 Socket 754 2005年Q3 予定
MT-42 2.4 512 Socket 754 2006年Q1 予定(?)
MT-44 2.4 1024 Socket 754 2006年Q1 予定
??? - - Socket S1 2006年Q2 予定
35 ML-30 1.6 1024 Socket 754
ML-32 1.8 512 Socket 754
ML-34 1.8 1024 Socket 754
ML-37 2.0 1024 Socket 754
ML-40 2.2 1024 Socket 754
ML-42 2.4 512 Socket 754 2005年Q3 予定
ML-44 2.4 1024 Socket 754 2005年Q3 予定
??? - - Socket S1 2006年Q2 予定.Dual Core

参考:AMD Turion 64 MT-44とデュアルコア版Turion 64のリリース時期

 大きく分けて,モデルナンバーに『MT』を冠する TDP 25[W]のモデルと,『ML』を冠する 35[W]のモデルの2つに分けられます.そして実クロックが同じであっても, L2 キャッシュサイズが 512[KB] のタイプと 1[MB] のモデルが存在する場合がある点に 注意してください.

 2005年7月現在,入手できる Turion64 としては,2005/06/23 に出荷が開始された ML-40 (2.0[GHz]/L2 1[MB]/TDP 37[W]) が最もハイパフォーマンスなものになっています.しかし, 店頭価格は7万円を少し切るくらい.一方モデルナンバーが低い方は ML-30/MT-30 (2.0[GHz]/L2 1[MB]) が実売2万円台前半であり,何れもデスクトップ向け CPU と比較してかなり 割高です.また,一般的に品薄の場合が多く, 入手しにくい場合が多いでしょう.通販でも販売している店が多いのですが,一部のショップ では店頭でのみで販売している場合もあるようです.

 モバイル向け SocketA CPU である AthlonXP-M 2600+ が実クロック 2[GHz] で TDP 47[W] なのを考えると, とても低消費電力であることが分かります.

■Turion64 MT-32
■購入と取り付け
 クレバリーの通販で  Turion64 MT-32(L2:512K 1.8GHz 25W) を 2005/7/6 に購入.9日到着(^^).

 もう少し高クロックのものにしようかとも思ったのですが,殆どの物が品切れ or 高すぎ のため,まずは手頃な物で確認ということで MT-32 を選択しました.

Turion64 MT-32 (バルク).25,970円也

チップ上にブリッジが見あたりません.また,Athlon64 ではコアの上にヒートスプレッダ が取り付けられていますが,Turion64 はコアが剥き出しになっています.そのため,コア欠け 事故が発生しやすい他,一般の Socket754 用 CPU クーラーを取り付ける場合は注意が必要です(後述).

『AMD Turion 64』 の文字

『TMSMT32BQX4LD』が確認できる.

 前述しましたが,Turion64 はヒートスプレッダが無いため,CPU クーラーを取り付ける 際には注意が必要です.具体的には,ヒートスプレッダが無い分背が低くなるため,普通に CPU クーラーを取り付けると若干隙間が空いたり,ヒートシンクがコアに適度なテンションで 密着しなくなる場合が出てきます.この状況は,PentiumM CPU に対して Socket478 用クーラーを取り付ける場合と同じです.

 対応方法ですが,PentiumM では,高さ調整を行うために銅板をコアとヒート シンクの間に挟むという手法が採るのが一般的です.そしてこの高さ調整用に販売されている セット(銅板 およびコア欠け防止用のゴム足,シリコングリスがセットになっているのが一般的)がその まま Turion64 でも利用できるため,今回はこれを流用しました.

(株)親和産業 SS-PENM-RAB 770円也
ラベルのアップ

セット内容.説明書,コア欠け防止用ゴム足,シリコングリス,銅板

 PentiumM と Turion64 は CPU の大きさが異なるため,銅板の中心をコアの 中心に貼り付けると,周りにかなりスペースが空きます.また,ゴム足は丁度 良い位置に取り付けられないため,今回は使用しませんでした.

 Turion64 の Socket754 への取り付けですが,まずは通常通りソケットに CPU を取り付けます.次にシリコングリスを塗り,前述の銅板を乗せます. そして銅板の上にもシリコングリスを塗り,Socket754 用の CPUクーラーを 取り付けます.

 なお,CPU クーラー取り付け時にテンションが偏ってかかってしまうと コア欠けする危険性がありますので,充分注意してください.また,取り付け時に, ヒートシンクが銅板に密着し,適度なテンションがかかっていることを 確認してください.通電後,CPU 温度をチェックし,きちんと冷却されている かも確認した方が良いでしょう.

■動作チェックと設定
■起動チェック
 それでは通電してみましょう.なお,以下の検証に使用した T2-AE1 は BIOS を0402 に上げてあります. おそらく 0202 でも大丈夫だとは思いますが,BIOS が古い場合は update しておいた 方が良いかもしれません.


図 起動画面

 写真のように, CPU のタイプが BIOS からは『AMD Turion(tm) 64 Mobile Technology MT-32』 と認識されています.SocketA 用の モバイル向け CPU では unknown として認識される ことが多かったことを考えると感動物です.また,この画面から,起動時は 200[MHz]*4 の 800[MHz] で起動されることが分かります.

 しかし,BIOS POST 画面の最後で『CPU Over Voltage Error!』と,エラーが表示 され,F1 を押さないと次に進めません.


図 Vcore エラー

 再起動して DEL キーを押し,BIOS のセットアップ画面の Hardware Monitor で 覗いてみると…


図 Vcore のモニタ

 と,このように Vcore は 1.032[V] になっており,エラーになって(赤表示)います. Turion64 の定格はデータシートがまだ公開されていないために不明な部分が多い のですが,Standard K8 VID table で示される電圧よりも 100[mV] 低いらしい とのことですので,実際には 800[MHz]/0.9[V]〜1800[MHz]/1.2[V] が定格のようです.

 ですので,確かに 100[mV] 高いと言えば高いわけですが,一応動作範囲内の 電圧に収まっていますので,『CPU Over Voltage Error!』と,エラーが出るほどの 問題ではないように思われます.おそらく BIOS の電圧チェックのロジックにおいて Turion64 は想定外であり,仕様外 ということでエラー表示がされているのではなかろうかと思います.

 この問題への対応方法ですが,起動の度に F1 を押して…と,いうのは嘘で :-), 毎回これをやるのは鬱陶しいので,Hardware Monitor の Vcore の所を『Ignore』 に変更し,チェックしない&エラーで止まらないように変更しました.

■ソフトの設定
 Turion64 は省電力機能として, Cool'n'Quiet ではなく,AMD 製のモバイル向け CPU で 採用されている PowerNow! を使用します.これは C'n'Q と同様,負荷に応じて CPU の動作 クロックやコア電圧を上下する仕組みです.

 通常は PowerNow! を使用するためには BIOS のサポートが必要なのですが,T2-AE1 は デスクトップ向け M/B のため,当然そのような機能は乗っていません.そこでソフト的に コントロールすることにします.コントロール方法は AthlonXP-M で使用した方法と同じ であり,CrystalCPUID を使用します.

 ソフトの設定方法などに関しては,AthlonXP-M 2600+ と同じですので, こちらのページを参照してください.今回は CrystalCPUID 4.4.8.261 を使用しました.なお,MT-32 で設定可能な CPU の倍率は, 最高で 9倍までです.それ以上に設定しても反映されません.

 実の所,まだ設定を細かく詰められていませんが,低負荷時は 800[MHz](200*4)/1.0[V],高負荷時は 1800[MHz](200*9)/1.3[V] という設定で問題なく 動くことを確認しました.高負荷時のコア電圧はもう少し低くても大丈夫だと思われます ので,これから詰めて行こうと思います.ただ,欲を出して 1800[MHz]/1[V] と設定した ら,即座に Windows がハングしましたので詰めすぎにはご注意を :-)

■パフォーマンスと発熱状況のチェック
■hdbench での比較
 T2-AE1 には Windows しかインストールしていませんので,UNIX 用の Bytebench ではなく, 広く使用されているHDBench 3.22 のみでベンチマークを取ることにしました.使用したバージョンが古いのは,過去のデータと 比較するためです.なお,本サイトのコンテンツ内でも度々書いていること ですが,あくまでもベンチマーク結果はパフォーマンスの1つの指標ということで見て下さい.

 まず,測定の環境ですが,測定は Windows 2000 (SP4)上で行い,VGA はオンボードのもの を使用しました.そして解像度は SXGA(1280x1024),フルカラー,リフレッシュレートは 85[Hz]で行って います.なお,参考データとして,K7DDR でのデータも併記しますが,ディスクのベンチに関しては 欠損があったため,一部別条件のデータをコピーしています. K7DDR の構成に関しては,こちらのページを参照してください.

表 HDBench 3.22 の結果
CPU 条件 Integer Float MemoryR MemoryW MemoryRW DirectDraw Rectangle Text Ellipse BitBlt
T2-AE1 +
Turion64 MT-32
1800[MHz]固定 83699 98164 89470 70882 119657 25 21516 20369 11700 60
800[MHz]固定 37005 43369 42939 44065 55995 19 15551 14521 7394 44
T2-AE1 +
Athlon64 3400+
(2.4[GHz])
Q'n'C OFF
2.4[GHz]固定
111605 130917 97966 51998 102767 28 20385 19954 11300 57
K7DDR +
AthlonXP-M 2600+
FSB266 85531 104055 18995 21803 26287 30 20552 19570 9900 88
FSB333(x14) 99396 120930 24667 26919 32642 30 26759 24400 12280 45
K7DDR +
AthlonXP 1800+
FSB266 65572 79581 18930 21333 25793 30 20320 19171 9193 34
FSB333 81645 99332 21955 26256 30698 30 23000 21800 10500 72

※HDDのベンチ結果は表が横に長くなりすぎたため,コメントアウトしてあります. 数値を見たい場合は,HTML のソースを読んでください :-)

 計測条件が異なるものが混在しているため,数値をそのまま比較することは出来ませんが, K7DDR から T2-AE1 への移行に関し,以下のようなことがおおまかには 言えると思います.

  • AthlonXP から Athlon64/Turion64 に移行することにより,CPU 性能は 32bit 環境 においても,実クロックの比率+α(整数は〜10[%],実数は〜5[%])程度のパフォーマンスアップ
  • メモリ帯域は FSB の上昇も相まって劇的に上昇
  • P-ATA/5400rpm から S-ATA/7200rpm に変更することも相まって,ディスク転送速度が 大きく上昇

 また,Athlon64 と Turion64 とを比較すると,CPU 性能はほぼクロック比通りの差が出てい ます.ただし,メモリ帯域に若干バラツキがあるのが気になりますが…

 次に,上記結果を棒グラフにした結果を示します.


HDBench 3.22の結果

 グラフを見ると一目瞭然ですが,CPU 性能のみを見た場合,Turion64 MT-32 (1.8GHz)は 定格の AthlonXP-M 2600+ (2.0GHz)とはほぼ同等のパフォーマンスに止まるものの, システム全体として見た場合,T2-AE1 は K7DDR を大きく引き離しています.

 また,私が日常的に行う最も重いタスクである MPEG2 のビットレート変換を調べてみると,

(※)640x480 MPEG2 4Mbps VBR で記録したTV録画ファイル(『せやねん!』2005/6/25 放送分)の先頭 1001フレームを, 720x480 8Mbps CBR MPEG2 にビットレート変換(ベンチ用の特殊なタスク.意味はない)

表 TMPGEnc を用いて MPEG2 ファイルのビットレート変換行った場合の所要時間
環境 所用時間[sec] 備考
T2-AE1 +
Turion64 MT-32
(1.8GHz固定)
69 (*1)
66 (*2)
T2-AE1 +
T2-AE1 +
Athlon64 3400+
(2.4GHz固定)
57 (*1)
K7DDR +
AthlonXP-M 2600+2
(定格の 2.0GHz固定)
85 (*3)

(*1)TMPGEnc 2.521.58.169 を使用し,SSE2 有効
(*2)TMPGEnc 3.0 XPress を使用し,SSE3有効
(*3)TMPGEnc 2.521.58.169 を使用し,SSE2 無効

 と,このようになり,私が最も処理速度を改善したいと考えていたジョブに対し, SSE2 が利用できるようになったことも相まって,20[%]もの処理時間の短縮が成されています. また,Turion64 では,Socket754 版 Athlon64 では利用できなかった SSE3 が有効になって おり,これも併用することにより,さらに 5[%] 近く時間を短縮することが出来ました.

 パフォーマンスに関する結論をまとめると,

  • AthlonXP-M 2600+ から Turion64 MT-32 への移行は,実クロックが低下するにも 関わらず,CPU パフォーマンスはそれ程変らない
  • Turion64 は SSE2, SSE3 が利用可能であり,これらを利用可能なアプリケーションの 実行速度は大きく向上する
  • システムとしてみた場合,K7DDR から T2-AE1 への移行することにより,CPU 以外にも 大きくパフォーマンスアップが望める
 なお,高クロック版の Turion64 の登場が今後計画されていますので,今後更なる アップグレードが可能であると考えて良いと思います.ただ,Turion64 のハイエンド CPU は非常に高価ですので,それなりの出費は覚悟しないといけないかもしれません. AMDには 『早く Turion64 を安くして欲しいなぁ』と,お願いしておきたい気分です.

 さて,次はメインテーマの『消費電力』に関してです.

■発熱の検証
 パフォーマンスに関しては,Turion64 は申し分のない性能を持っていることが分かり ました.また,Athlon64 3400+ であれば,さらに上が狙えるということも,データから 明らかになりました.

 しかし,いくら高パフォーマンスであったとしても,安定稼働しな ければ意味がありません.特に大きな懸念事項となるのは,CPU の発熱による不安定化です. 高発熱 CPU を利用している場合,冷却性能にかなりのマージンが得られないと,例え冬の 寒い時期は安定して稼働していたとしても,夏の暑い時期は問題が起きかねません.特に これから暑い時期が到来しますので,非常に気になる所でしょう. 6月には酷暑の日々が 続いておりましたので,既に痛い目に遭った方がおられるかもしれませんが…

 CPU クーラーとして,現在私は本体に同梱されていた Asus 純正クーラーを 使用しています.最近の高い放熱効率を持つ CPU クーラーと比較すると,やや貧弱な感は 拭えませんが,価格および物理的に取り付けられる高さに制限があることを考えますと,品質 として妥当な線ではなかろうかとも思います.

 では,これまでと同様,午後のこーだを使用した耐久試験(10分間)を行うことにします. ただし,MBM でうまく温度センサーが認識できませんでしたので(単に設定をうまく出来なかった だけとも言います :-P ),各温度は Asus PC Probe 読みで行うことにしました.ちなみに SpeedFan を使用すると,Asus PC Probe で表示されるものの他にもう一つセンサが認識できましたので,Athlon64 3400+ での 実験結果にはこの値も並記することにします.室温は 29[℃]の環境で実験を行いました.

※CPU:Asus PC Probe の報告する CPU 温度.SpeedFan では Sensor2
 MB:同 M/B温度.SpeedFan では Sensor1
 Sensor3:SpeedFan で認識されたセンサ
表 午後のコーダ耐久ベンチ Athlon64 3400+ 条件(C'n'Q ON)
センサー名 実験開始前[℃] 1分後[℃] 2分後[℃] 4分後[℃] 5分後[℃] 10分後[℃] 終了1分後[℃] 終了2分後[℃]
CPU 38 50 52 54 54 56 46 43
MB 41 41 42 42 42 44 43 43
Sensor3 43 56 60 62 62 66 51 49

 当初,『CPU』よりも Sensor3 の方が温度が高いため, Sensor3 は CPU のサーマル ダイオードから温度を取得しているかと思っていたのですが,変化の傾向や SpeedFan の設定を見てみると,どうも違うようです.また,Asus PC Probe の報告する CPU の 温度も,上昇/下降の勾配にやや違和感を覚えます.しかし,正確な温度を測定する他 の手段を見付けられていませんので,Asus PC Probe の報告する『CPU 温度』を正しい 値として見ることにします.Sensor3 は CPU+5[℃] 近くの値をレポートしていますの で,安全を見る際には Sensor3 を参照した方が良いかもしれませんが…

 気を取り直して上記データを見ますと,負荷がかかり始めてすぐに急激に温度が上昇 します.そしてある程度上昇しきった所で上昇の勾配は緩やかになります.10分間で 56[℃]まで上昇しました.当該の Athlon64 3400+ の TCase(Max) は 70[℃] ですので, まだかなり余裕があります.計算上は室温が 43[℃] (70-56+29)になるまでは大丈夫です.

 しかし,10分以上負荷をかけた場合にまだジワジワと温度が上昇する可能性があること, Sensor3 の件を考えると,3400+ を充分に冷却するには,同梱の CPU クーラーではやや力不足 の感があります.

 次に騒音の面に関して言及しますと,T2-AE1 には,CPU or M/B の温度に 連動してファンの回転数を増減させる Q-Fan という機構が備わっています.普段の 低負荷時にはファンをゆっくり回して低騒音を指向し,熱くなってきたときにはファン を高速に回して排熱能力を高めるという機構なのですが,当然ながらファンが高回転に なったときには騒音はそれなりになります.実際,低負荷時には CPU ファンは 2000[rpm] 程度で回っており,非常に静かなのですが,高負荷時には 5000[rpm] 以上で回転し, 耳障りな音を発します.そして『耐久ベンチ』時には,1分を越えた辺りでフル回転 (CPU 温度が 50[℃]を越えてしばらくすると回転数が上昇し始める)になります.

 騒音,発熱の面を考えると,T2-AE1 で 3400+ を快適に使うためには何らかの 手立てをしなければいけないかもしれません.

 次に今回の真打ちの Turion64 MT-32 での結果です.室温が 28[℃]の環境で 実験を行いました.なお,MB 温度はあまり重要ではないため(42[℃]から殆ど 変化無し),割愛します.

表 午後のコーダ耐久ベンチ Turion64 MT-32 条件(1.8GHz 固定)
センサー名 実験開始前[℃] 10分後[℃]
CPU 38 44

 え?開始前と10分後だけのデータしか無いじゃないかって? :-)

 実は予備実験中に『ナメとるんか』と,言いたくなるほどジワジワとしか温度が 上昇せず,それも44[℃]で頭打ちになったため,『これで良しとするか…』と, 厳密な実験を止めた次第.伝聞では Turion64 はモバイル向けと言うこともあり, TCase が 95[℃] とのこと.人が普通に生活できる温度環境においては,現行の CPU クーラー etc の構成で全く問題ないと言えそうです.

 さて,Athlon64 3400+ との比較ですが,全く比較にならないほどの差が出ています. また,AthlonXP-M 2600+ と比較した場合でも, Asus PC Probe を信用するのであれば,Turion64 にかなりのアドバンテージがあります.TDP 25[W] vs 47[W] ですので,当然といえば当然の結果であると思われますが….

 ここまで来ますと,64bit CPU で CPU ファンレスというのも可能ではなかろうかと いう考えが頭を過ぎります.

 ALPHA U81C-60A が何故か机の上に転がっていますので :-) ,いずれ試す日が来るかもしれません. ただし注意が必要なのは,Terminator シリーズは CPU の直近にケースファンが付いて いましたが,TerminatorII シリーズでは,ケースファンが CPU から少し離れて 配置されています.そのため,ダクトを作成したり,ファンを少し強力な物に変更する 等の対策を講じる必要があるかもしれません.

■まとめ
 正直な所,『今更 Socket754』という考えが頭の片隅にあったのですが,Turion64 が問題なく動作するに到り,この考えは消し飛びました.Socket939 ベースの Athlon64 には 90[nm]プロセスルールの低消費電力コアがあるとは言え,Turion64 程の低消費 電力は実現出来ていません.

 そして従来『モバイル系の CPU をデスクトップ PC で動かすには 色々と面倒』や『動かないことも多い』ということがありましたが,こと Turion64 と T2-AE1 の組み合わせに関しては,『挿せば動く』に近い状態になっており, 『TerminatorII AE1』がこのタイミングで新製品としてリリースされた理由の1つを 垣間見た感じがします.

 また,パフォーマンスの尺度を TMPGEnc を使用した MPEG2 のエンコード性能に限定した場合,高クロックの Pentium4 の方が Athlon 系 CPU よりも有利なのは周知の事実なのです.しかし,個人 的には,冷却のために爆音を引き起こす高発熱 CPU の利用は敬遠したいと考えて いました.そうすると Terminator で新規にマシンを組む場合は選択肢が皆無になり, 手持ちのマシンをパワーアップしようとしても K7DDR は既にアップグレードパスが 閉ざされており,打つ手無しの状態でした.この重いジョブ,何とかならないかなぁ… と,頭を抱えていた矢先でしたので,T2-AE1 のリリースは非常に良いタイミングでした.

 以前,別ページに書いた内容なのですが,

     個人的には,最近 Asus がややミーハーな方面を志向しているような気がして なりません.Terminator ユーザーの間でも最近声が上がっていますが,Terminator TU や K7DDR が志向していたような,『省スペース,高パフォーマンス,そこそこの拡張性』 を満たした,Pentium-M もしくは Athlon64 が利用可能な Terminator の出現を切に 祈って止みません.
 が実現されて嬉しい限りです.

 今後は,より高いパフォーマンスの Turion64 への乗せ換えや,CPU ファンレス化も眼中に 入れた静音化を試行しようかなと考えています.そういう意味では,Turion64 がもっと 手軽に手を出せる価格に落ちてきて欲しいものです…

 あと,別ページに書かせて頂いた Cool'n'Quiet 動作時に発生するオンボード VGA の ノイズなのですが,PowerNow! を利用するようになったためか,発生しなくなった感じが します.週末に GigaByte GV-N66256DP を購入してきたのですが,ちょっと早まったかも…


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